「 財政再建の方向をしっかり確立するのが首相の責任だ 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年1月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 870
年初の財界首脳らの発言に納得がいった。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長は、政府からは有効な景気対策はなにも出てこないとの前提で個々の企業はこの1年に備えていると語り、新日本製鐵の三村明夫会長は、今年の景気の厳しさを強調した。
およそ企業のトップは皆、民主党政権の経済、景気政策にいかなる期待も抱いておらず、自力で生き残っていくという気概を示していた。
日本だけでなく国際社会も含めて2011年の景気見通しは本当に厳しい。各国共にリーマンショック以後、景気浮揚政策で10年の経済を支えた。しかし、そうした施策が基本的問題の解決につながったわけではない。
たとえば菅直人首相は、「雇用、雇用、雇用」の政策を実施すると強調してきたが、雇用状況は改善されていない。大卒者の就職内定率は10年10月時点で57・6%にとどまり、失業率は5・1%に高止まりである。雇用不安ゆえに、家計は守りの姿勢を強める。消費は落ち込み、需要は増えない。こんなときに政府が力を注ぐべきことは小手先のバラまきではなく、根幹の政策転換である。
民主党のバラまき政策に対して、社会保障制度を抜本的に見直したうえで、消費税率を上げよという批判がなされてきた。だが、首相は消費税への言及で支持率が落ちたと考え、消費税の議論は四月の統一地方選挙が終わるまで行わない考えだ。国民の抱いている切迫感を認識していないのである。
普通の国民は、税収をはるかに超える赤字国債で賄われる予算や財政の危険を十分に認識しており、すでに消費税増税は避けられないと自覚している。国民が求めるのは、責任ある政策の提示であり、まともな議論である。国民に好かれるか否かを忖度する無責任な逃げの姿勢こそが嫌われているのだ。首相はそのことに気づくべきだ。
日本の財政の厳しさを数字で見ると切実さを通り越して慄然とする。
1,000兆円規模に達しようかという突出した財政赤字を支えているのが潤沢な家計貯蓄だが、このままでは、20年代には政府債務が家計貯蓄を上回るだろう。シンクタンク国家基本問題研究所の企画委員で東京国際大学教授の大岩雄次郎氏が語る。
「あと10年ほどで日本国は国債を消化出来なくなる見通しです。財政危機の根底にあるのは少子高齢化に伴う社会保障費の急増です。だからこそ、社会保障制度の根本的な改革が必要です。子ども手当に象徴されるバラまき政策で来年度予算に占める社会保障費は28・7兆円、一般歳出のじつに52%超です」
一般歳出の半分以上を社会保障費に使い、しかも増税の提言を恐れ続ける政権は、無責任そのものだ。この財政赤字を負担するのは、バラまきの対象の国民である。とりわけ、若い人びと、将来世代である。
「いちばん重い負担は、まだ生まれていない将来世代に付け回されます。内閣府の経済社会総合研究所の試算では、将来世代がその一生で引き受けなければならない純負担は、なんと1億500万円です。これから生まれる子どもたちは、生まれながらにして億単位の借金を背負わされるということです。
生涯所得に占める負担率を見てみましょう。現在0歳世代の子どもたちの負担率は16・7%、20~60歳世代は8・0%、80歳以上では受ける利益が負担を超えています。対して将来世代の負担率は51・4%です」
孫やひ孫にこんな苦労を負わせることはなんとしても避けなければならない。財政再建の方向をしっかり確立するのが首相の責任というものだ。それで支持を失って辞任するとしても、大きな課題の解決を図ったとして、首相は評価されるはずである。任期や人気を考えず、国の立て直しにまい進する気概こそ、首相に持ってほしい。